【南森町奇譚】フレンチトースト
それはまだ冬の寒さが残る3月のことだった。
「まったく、ヨシダのやつは…」
ぼやいているのは、大阪にある小さなウェブ制作会社の社長である。今日も部下のヨシダがしょうもないミスをしでかし、ずいぶん帰りが遅くなってしまった。
仕事を終え、一人オフィスを背にし駅へ向かう。
(今日は珍しく座れたな)
いつもより時間が遅いせいか、電車内は比較的空いていた。疲れた体にはありがたい。
(…ん?)
ふと、車内に甘ったるい匂いが充満していることに気付いた。
(なんだろう…?香水…じゃないな)
社長の近くにいるのは、隣に座っている若い男だけだ。甘い香水をつけるようなタイプには見えない。
自宅の最寄り駅に着くまで彼の疑問は解決しなかったが、気に留めないことにして電車を降りた。
改札へ向かう階段を上っていると、電車の中で隣に座っていた若い男が前を歩いていることに気付いた。
(同じ駅だったのか)
そう思いながら、若い男の後ろについて改札を抜けようとしたとき、若い男の定期入れから何かが落ちるのが見えた。
「何か落ちましたよ」
とっさに声をかけると、若い男は振り返り落し物を拾った。
「ありがとうございます。この時期はこれが手放せなくて…」
若い男は拾ったフレンチトーストを左の胸ポケットに仕舞い、颯爽と出口へ向かった。
(フレンチトースト…だったよな。カイロか何かと勘違いしたんだろうか…?)
そんなことより、あの定期入れにどうやってフレンチトーストが入っていたのか。様々な疑問がよぎったが、社長の出した結論はこうだった。
「ああ、俺はとても疲れているんだな」
今日は熱いシャワーを浴びてさっさと寝ようと心に決め、社長は疲れた体を引きずりながら出口へと向かうのであった。
フレンチトーストの材料
食パン 1枚
卵 1個
牛乳 100ml
砂糖 大さじ1
バター 適量
フレンチトーストの作り方
① 卵、牛乳、砂糖をボウルに混ぜる。食パンは食べやすい大きさに切る。
② パンをボウルに浸す。
③ フライパンにバターを溶かす。
④ パンを焼く。
⑤ 焼き目がついたら裏返す。
⑥ 出来上がり
ワンポイント
簡単なのに、プリンみたいに柔らかくて甘くて、しかもお腹いっぱいになります。休日のブランチにちょうどいいはずです。
もうひと手間かけて、カットしたバナナをフライパンで焼いて一緒に食べるとかなり贅沢な気持ちになります。アイスクリームを添えてもいいです。夢が広がります。
フレンチトーストのぐにゃぐにゃした食感が苦手な方は、フライパンで焼く工程の最後で表面にグラニュー糖をまぶして焼くと、外カリカリ中トロトロのフレンチトーストになるそうです。でもまあ、そもそも固くなったパンを柔らかくして食べるための料理なのでぐにゃぐにゃした食感が苦手ならラスクでも食べときなはれと思いますが。
ちなみに冒頭の小話は全編フィクションですが、作り方は本当です!