悲壮な物語なのに、ゆるい日本画『つきしま』―『築島物語絵巻』―
こんにちは。最近ぎっくり腰になったので、重い物を持つときはやたら慎重なヨシダです。
重い物といえば、お城の石積みや、古いお寺の大きな柱を見ると「コレどうやって運んだの?」と思いますよね。
昔の建築工事や土木工事は、きっと今より危険で大変な作業だったのでしょう。
今日のブログでは、そんな昔の土木工事にまつわる絵巻を紹介します。
平安時代、平清盛が大輪田泊(神戸港あたり)を造成した際に、海の神様を鎮めるために人柱を立てたという伝説があります。
『築島物語絵巻』はその伝説を基に描かれているのですが、「人柱」という残酷なテーマを扱っているわりに、絵がすごくゆるいです。
『築島物語絵巻』の悲しい物語と、絵のゆるさのギャップをお楽しみください。
『築島物語絵巻』(通称『つきしま』)とは
『築島物語絵巻』(通称『つきしま』)とは、平清盛が大輪田泊を築港する際に、人工島(築島)に人柱をたてたという伝説に基づく物語絵巻です。
あらすじ
平清盛は大輪田泊の築港のため、人工島(築島)の造成に取り掛かっていました。山から運んだ土を海に埋め立てていましたが、波が荒くなかなか工事が進みませんでした。そこで貴族たちは人身御供で海の神を鎮めようとし、30人の人柱が集められました。
行方知れずの娘を探すために兵庫に来ていた男は、運悪く人柱として捕まってしまいます。
父の難を聞きつけた娘が身代りを申し出たので、男は解放されます。最終的には30人の人柱の身代りとして、平清盛の従者である松王丸が入水し、築島は無事完成しました。
※一説には、平清盛は人柱を捧げることなく、石にお経を書いて沈め無事工事を終えたため、この人工島は経ヶ島と呼ばれたとも言われています。
築島物語絵巻のゆるい絵
上の絵は、山から土を運び、海を埋め立てている場面です。
遠近感がなく、山がめちゃくちゃ急勾配です。
当時の技術では埋め立て工事はなかなか進まなかったようですが、この絵の中で埋め立て作業をしている人たちは、無邪気に遊んでいるかのように見えます。
ちなみに、屋根の下にいる人たちは、人柱にされる人々です。
上の絵を一部拡大。軽作業のように見えますが、土を運んでいます。
人柱にされる人々が捕えられている場面です。
みんな3~4頭身くらいです。
棒を持った男性たちは動きが緩慢に見えるので、あまり怖くありません。
人柱が囚われている建物はかなり簡略化されていて、ゆるさが際立ちます。ちょっと押したら倒れそうです。
この絵の、右の建物。窓とか、土台とか、いろいろ変です。
まるで「だまし絵」のような不思議さです。
見ていると、なんともムズムズする建物。屋根はどうなってるんだ。ここだけでも描き直してあげたい衝動に駆られます。
30人の人柱の代わりに、平清盛の従者である松王丸が入水します。中央で扇を持っているのが松王丸です。
左上では僧侶が読経しています。(段ボールに入っているわけではありません。)
船には大量のお経が積まれています。
荒ぶる海の神を鎮めるため松王丸が自らを捧げるという、この物語のクライマックスであり、最も悲壮なシーンです。
でも、なぜか悲壮感皆無。ほのぼのした絵です。
なんなら左の方で白い物を掲げている人たちは、暇を持て余して遊んでいるようにも見えます。
まとめ
日本画というと、日本史の資料集で見た絵や金屏風を思い浮かべがちですが、『つきしま』のようなゆるい絵もたくさんあります。ゆるくて素朴な絵は、豪華絢爛な絵画にありがちな「ドヤ感」がなくて親しみやすいと思いませんか?
素朴な日本画をまとめた本もあります。素朴絵が気になった方は、手に取ってみてください。