『密室殺人ゲーム 王手飛車取り』:歌野 晶午
こんにちは。徒然書評へようこそ。
ゲストライターのTKです。
本寄稿も第5回となります。
本日は少し異色の作品をご紹介したいと思います。
『密室殺人ゲーム 王手飛車取り』:歌野 晶午
密室殺人ゲーム 王手飛車取り 著者:歌野 晶午 出版社:講談社
全うなる企業活動を営んでいる一企業様のサイト「バケモノ.jp」でこのような物騒極まりないタイトルの本を紹介してしまうのもいかがなものかと思いますが、Goサインが出たということで話を先に進めさせていただきます。
といっても過去にも紹介してきました「本格推理もの」というジャンルからは外れていません。設定がぶっ飛んでいるのです。
簡単にご紹介しましょう。
ハンドルネームという言葉をご存知でしょうか。
最近ではあまり使われないかもしれませんが、ダイヤルアップ回線全盛期に「インターネット上で使用する名前」として使われた言葉です。
本作の主人公5人はハンドルネームで登場します。
そう、舞台はインターネット。
インターネット回線を通じて、5人の主人公がビデオチャットをしながら物語が進んでいくのです。この時点で少し珍しいですね。
この5人。
インターネット回線で何をやっているのかというと、推理ゲームに興じているのです。こんな密室トリックはどうだろう、あんなアリバイトリックはどうかな、こんな時間差トリックは、と日々出題者と回答者に別れて、推理ゲームをするのです。
ここまでなら、高校や大学のミステリ研究会でもやっていそうな内容。
ここからが違います。
出題者は、自ら考え出したトリックを実行したうえで、出題するのです。
つまり、自ら考え出したトリックで、実際に人を殺害し、トリックを完成させたうえで、警察を欺き、他の4人の回答者たちに出題するのです。
「このトリックが解けるか?」と。
はい、常軌を逸していますね。
あまりに反倫理的で、BPOやPTAからの批判が怖い。自主規制必至です。
恨みがあるわけでも、嫉妬があるわけでも、金が欲しいわけでもありません。
ただ、トリックを試したいという理由で人を何人も殺していくのです。
とても衝撃的だったので強調してしまいました。
本ブログが炎上しないか気がかりです。
私もこの部分のインパクトのために推理ゲーム自体に身が入らず、5人の行く末ばかりが気になってしょうがないという状態に陥りました。著者的には成功しているのかどうなのかわかりませんが、そういう意味では先が気になる小説ではあります。
その衝撃の後には、あまりに設定がぶっ飛んでいるため、リアルに受け止めることができずに、エンターテインメントの一種として、楽しんで読めるようになるはずです。
と、逃げを打っておきたい。(真似しようなんて人はいません。たぶん)
推理自体は本格的なトリックが用いられています。本格ファンの方も楽しめるのではないでしょうか。
ビデオチャットの場面は多くが会話文を用いており、読みやすさは抜群です。
色モノ扱いしてしまい、著者の方には大変申し訳ありませんが、本格的でガッチリとした「密室」「アリバイ」「凶器」の謎を「名探偵」が出てきて明らかにする、という小説に飽きてしまった上級者の方へ、本作をオススメしておきたいと思います。
なお、本記事は個人の主観的な単なる小説の感想であり、密室殺人ゲームを助長する目的はなく、万が一億が一密室殺人ゲームの模倣犯が現れてもバケモノ株式会社とは何の関係もありません。あしからず。