『名探偵の掟』:東野 圭吾
こんにちは。徒然書評へようこそ。
書評ライターのTKです。
第10回目の寄稿となります。
夜はまだ少し冷えますが、昼間はもう真夏のような暑さになる日もちょくちょく現れ始めて、げんなりしつつクールビズに身を包んで毎日オフィスに向かっています。
頭が疲れていては仕事の効率も上がりません。ときどき息抜きしながらお仕事がんばってくださいね。そういうわけで、今回は息抜きにぴったりな一冊をオススメします。
『名探偵の掟』:東野 圭吾
東野圭吾といえば、『探偵ガリレオ』シリーズ、『刑事・加賀恭一郎』シリーズをはじめ、数々の賞を受賞し、様々なジャンルのエンターテインメント小説を産み出し続けていることは皆様もご存知でしょう。
自慢するわけではありませんが、文庫化された氏の作品については全て拝読しています。
東野ファンであれば、前述したシリーズや『秘密』『手紙』『白夜行』『幻夜』といったメッセージ性が高く、重厚な作品をお奨めするのかもしれませんが、ここはあえてこの作品を選んでおきます。
『名探偵の掟』は、その名のとおり名探偵が登場する推理ものです。
徒然書評の読者様方も私のせいで「ミステリはもういいよぉ・・・」といささか食傷気味であることは承知のうえです。
ですが、この作品はただの探偵推理小説とは違います。
通常の推理小説は、事件が起こり、警察が呼ばれ、調査をするが犯人が分からないところに、偶然にも居合わせた胡散臭い探偵が見事事件を解決するというお約束がありますよね。
この作品では、天下一大五郎という探偵と、警部の大河原番三というキャラクターがレギュラーとして出てくるのですが、彼らは推理小説の主役を演じながら、「また密室かよ」と心の中で作者に対して批判するのです。
メタフィクション。
漫画や小説の中のキャラクターが読者に対して語りかけたりして、作品と現実の壁を越えてしまうような作品のことを言います。
「つまり私は天下一探偵シリーズの脇役なのである。名探偵ものには必ずといっていいほど、見当はずれな推理を振り回す刑事が登場してくるが、その道化を演じるのが私の役どころだ。」
上の台詞は大河原警部のものですが、このように登場人物自らが小説の中のキャラクターであることを自覚しつつ、推理小説もののメインテーマであり、お約束になってしまっている“密室トリック”や“アリバイトリック”について、痛烈かつコミカルに批判していくのですね。
読んでいる側としては、「え、それ言っちゃっていいの?」と不安になりつつも、天下一探偵と大河原警部のユーモラスなやり取りに、つい声を出して笑ってしまうこともあるかもしれません。はまらなかったらすみません。
少し古い作品なので、推理小説を読みなれた方には物足りないかもしれませんが、それほど本を読まれない方には目新しく映るのではないかと思います。
「何を出しても売れなかった頃、やけくそで書いたのが本書だ。読者に一泡吹かせてやろうと思い、小説のルールはすべて無視した。」
この作品について、著者もこう言っています。
就業時間中は紳士的かつ誠実に業務をこなしている皆様方も、既存のルールや社会の型に嵌められることが窮屈と感じているのではないでしょうかね。勝手な想像ですが。
「ルールは破られるためにある。」と昔の偉い人が言ったとか言わなかったとか。
ルールを破った作品の面白さがここにあるような気がします。