徒然書評

『ちょっと今から仕事やめてくる』:北川 恵海

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こんにちは。徒然書評へようこそ。
書評ライターのTKです。

第11回目の寄稿となります。

そろそろ扇風機が欠かせない季節になりつつあります。
日中のオフィスでは設定温度を28℃に保って、クールビズってる会社様も多いことでしょう。誰が言い始めたのか知りませんが、軽装で働けて非常に助かっております。

今回は「働くこと」をテーマにした面白い小説を読みましたので、それをご紹介させていただきましょう。

『ちょっと今から仕事やめてくる』:北川 恵海

ちょっと今から仕事やめてくる (メディアワークス文庫)
ちょっと今から仕事やめてくる 著者:北側恵海 出版社:KADOKAWA/アスキー・メディアワークス

厚生労働省が違法な長時間労働などをさせている“ブラック企業”の会社名を公表していく、という取り組みを始めました。対象は大企業のみ、ということでネットでは、ザル法ではないかとの懸念が議論されています。

本作は、そんなブラック企業に勤める一人の真面目な会社員が主人公。
厳しいノルマ、激しい罵倒、長時間の残業。
心も体も疲れきった彼は、「もういいや」と思いながら、駅のホームからふらふらと線路のほうへ近づいて行くのです。

そこへ現れたのは、同級生だと名乗る人物・ヤマモト。
しっかりと主人公の手を掴んで、事なきを得ます。偶然もあるものだ、と言いながらとりあえずビールで乾杯し、その後もコトあるごとに居酒屋で一杯やる仲に。

ヤマモトは、仕事の愚痴を聞いてくれるし、飲んで騒いでいたら仕事であった嫌なことはすっかり忘れることができる。憩いの場のようなものになり、仕事もうまく回りはじめます。

ところが、主人公が“ヤマモト”だと思っていた人間は、海外にいることが判明します。
こいつはいったい誰なのだろう。
これまで仲良くやってきた目の前の男への疑惑が膨れあがり、ミステリーな展開が待っているのです。

タイトルからも分かるとおり、本作は、そんな主人公が一世一代の決意をもって勤めているブラック企業を退職するというストーリーです。

現実には、過労を苦に自ら死を選ぶケースなども報道されています。
ですが、本作はそういった苦しみを、「働く者みんなが持っているもの」と捉えて、ハードルは高いけれども、どうにもならなくなったときは死ぬことではなくて、家族や友人に相談したり、退職や転職の自由もあるのだから「思い切って辞めてみるのもあり」という問いかけをするのですね。

辞めたいと思っていても、自分の生活がかかっています。世間体、親への説明、友達の成功に比べて自分はなんて駄目なんだろう・・・といういろんな不安が生まれてきます。
そうした不安を乗り越えて退職を決意する主人公に、自分を重ねて読んでみると清清しい気持ちになれるかもしれません。

分かりやすい文体で書かれていて、登場人物も少なくシンプルな物語となっています。日々の労働で疲れた脳にも、すっと内容が入ってくると思います。

本作は割りと真面目な内容でしたので、私の紹介も真面目一辺倒になってしまって申し訳ありません。ぜひ次回はもう少し砕けた紹介を心がけたいと思っています。

本作品は純粋なミステリー作品ではありません。
これは、一つの会社にしがみついて生きていくことだけが人生ではない、だから力抜いていこう、という労働者へのエールなんだろうと私は思います。

今の仕事が辛いなぁと思っている方は、目を通してみると良いと思いますよ。
少し気が楽になるかもしれません。

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