徒然書評

『ソロモンの偽証』:宮部 みゆき

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こんにちは。徒然書評へようこそ。
書評ライターのTKです。

本寄稿も第6回となります。

本屋さんで平積みされているのを見かけたときから、内容の想像できないタイトルだったので、読んでみたいと思ってはいたのですが、文庫版で全3部上下巻あわせて6冊という重厚なボリュームを目の前にして、どうにも手を出す決心が付かなかった本作ですが、ついに読了しました。

今回ご紹介するのは、現在公開中(執筆時点で)の映画でもあります。

『ソロモンの偽証』:宮部 みゆき

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)
ソロモンの偽証 著者:宮部みゆき 出版社:新潮社

宮部さんの作品をそれほど多く読んでいるわけではありませんが、“社会派”というテーマを取り扱った作品をいくつかお見受けします。本作は、「学校問題」を取り扱った紛れもない社会派作品なのです。

真面目に説明すると眠くなるだけですので、あらすじを大雑把に説明しておきます。

学校で起こった、生徒の飛び降り自殺に、警察は「自殺」との判断を下します。
あるとき、「自殺ではなく殺人」という告発状が学校へ届くのです。そして、その告発状には殺人を為した人物の名前も明記されていました。
ですが、警察は「自殺」の判断を覆さない。そこで、当事者である生徒たちが卒業制作の一環として「模擬裁判」を実施し、シロクロつけてしまいましょう、という物語です。

映画では、原作に忠実に作られるのか映画向けに編集されるのかわかりませんが、大枠ははずさないアマチュア法廷ミステリといったものになるはずです。

本作はなんといってもボリュームがあります。
筆者の集大成、ということなのかもしれませんがいろんな要素が盛り込まれて、いいとこ取りをしたような作品です。

たとえば、本作は3部構成になっているわけですが、第1部では事件の発端・概要が語られるとともに、今後登場するキャラクターの紹介やエピソードが描かれるわけです。
まさに事件編。ミステリの前半部分さながらの展開になるのですね。

第2部では、模擬裁判を開くための準備が行われます。
警察へのヒアリングや、関係者への聞き込み、出廷要請など弁護士役・検事役の生徒自らが足を使って“捜査”をするわけです。
サスペンス小説や警察小説のようなテンポの良い展開で物語が進んでいきます。
(ただし、捜査するのは中学生です)

第3部では、学級内裁判の模様が描かれることになります。
まさに法廷ドラマ。警察では言わなかったけど、ココでなら言える!と決意した証人たちが真実を証言していきます。警察怒っていい。

そういうわけで、様々なジャンルの読みどころを取り入れたエンターテインメント色の強い作品になっています。登場人物は多いですが、きっちりキャラクター付けがされて、理解しやすいという部分も作者の手腕でしょう。

法廷編では流石に会話文が多く、地の文を目で追うのが苦手だという人にも読みやすいのではないでしょうか。
それだけではなく、主人公たちが中学生ということもあり、小難しい法律の話などが分かりやすく噛み砕かれて説明されています。その点でも、一般的な法律モノよりも抵抗は少ないでしょう。

6冊も続けて読むと、疲労感と謎の達成感を獲得できます。
この本を読んで、自分の好きなジャンルを新たに開拓するのもいいかもしれません。

ただひとつ、私が言いたいのは、私は別に新潮社様の回し者ではないということです。

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